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気まぐれに書評とか。

【書評】『消費するアジア』

アジアから目が離せない。日本のGDPはすでに中国にあっさりと抜き去られた。そして、下からはグイグイ新興国が追い上げてくる。そんななかで、日本人は自信を徐々に失いつつあるのではないかとさえ感じられる。

実際、アジアの追い上げはすさまじい。21世紀がアジアの世紀になることはほぼ確実といってもよいと私は考える。その中で日本も、周辺諸国といかに外交するか、その手腕が問われている段階だろう。

だが、アジア諸国には当然問題もいくつかある。中でも少子高齢化はかなりのスピードで進んでいる。中国では、豊かになる前に高齢化するのでは?という懸念が広がっているという。また、多くの国では豊かになりきる前に高齢化が進むため、社会保障の基盤が不十分になる可能性もあるという。

また、アジアのこんにちの発展は都市部とその周辺に限られたものであり、決してその恩恵が農村部まで届いていないという点には留意すべきだろう。徐々に農村部も豊かになりつつあるというのは、データでも実感でも示されているようだが、都市部の豊かさに比べてみればそれはまだまだである。

ただ、農村部の貧困は確実に解消されつつあると本書では断言する。

しかしアジア・太平洋地域では、それ以降の経済発展を背景に、2005年には3億人へ大幅に減少し、世界に占める割合も2割強まで低下した。なかでも中国の減少は著しく、1981年に比較して、6億人減の2億人となった。世界全体では、なお14億人の人びとが絶対的貧困の状況にあり、そのうちアジア・太平洋地域以外の貧困人口が1981年の8億人から2005年に10億人に増加したことを考えると、アジアは貧困から急速に脱却しつつある地域といってよい。

(横書きのため、漢数字はアラビア数字に直しました)

こう考えると、どうやら峠はこえたと考えることができそうだ。アメリカ情報局の2030年予測によれば、今後アジアをはじめとする新興国では急速に中間所得層が増加するという。それが農村部に端を発するものになるかどうかは今後の努力次第といったところだろうか。

だが、それと同時に注意しなければならないことは、豊かになりきれなかった農村と、発展しきった都市部との格差が火種となり政情不安定に陥る可能性もあるということだ。タイのタクシン政権に対するクーデターがあったことは記憶にあたらしいことと思う。アジアの政情不安は今後大きな問題になってくるだろうなと予想される。

最後に筆者はポーターのダイヤモンド・モデルを援用して、「消費者の意識改革がそのまま産業の改革につながり、ひいては(日本の)市場の持続的な拡大にもつながる」と主張する。「個の時代」に移り変わりつつあることはここでも伺われる。

最終的には「ひとりひとりの創造力だ」と筆者はいう。まったくそのとおりだと思う。日本は今後、ハードパワーでは勝負できなくなってくる。もはや全世界的なパイの奪い合いに勝てないからである。だから、ファッションやライフスタイルをはじめとするソフトパワーの発信がなによりも大切になってくるはずだ。アジアの文化基地としての日本を、今後期待したいと私も思う。韓国には負けていられないですね。