東芝の決算は1年前から大変なことになっていた?―『一生モノのファイナンス』
本格的に株式の投資をやりたいなあ、と思い始めたので、まずはどこに投資しようかを考えるために少しずつ財務諸表のお勉強をはじめました(いつまで続くことやら)。財務諸表は学生時代に少し勉強したことがあるのですが、正直営業利益とかそのくらいの単語しか覚えていないです。
今回手に取ったのは、『一生モノのファイナンス』という本で、これがなかなかわかりやすくて財務諸表をこれから入門してみたい方にオススメできると思ったのでご紹介します。なおタイトルにもある通り、ファイナンスの本なのですが、内容の半分くらいが財務諸表関係に割かれています。
一生モノのファイナンス入門―――あなたの市場価値を高める必修知識
- 作者: 朝倉智也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/03/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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正直B/SとP/Lについては、多少会計を勉強した際の記憶が残っていて知っている話が多かったのですが、今回の読書でキャッシュ・フロー計算書について知ることができたのは大きかったなと思います。そして、キャッシュ・フロー計算書をここまで楽しく読めるようになったのも、本書の例がとてもわかりやすいからかなと思いました。なので、今回はそれを紹介しようと思います。
キャッシュフロー計算書とは?
いきなり、B/SとP/Lの説明を省いて紹介するのでかなりざっくりした説明になりますが(前者2つは本書を読んで下さい(笑))、キャッシュフロー計算書とは企業の現金の流れを示したものです。会社経営にとって現金はもっとも重要なファクターですので、当然このキャッシュフロー計算書は重要な指標です。
キャッシュフロー計算書には3つの項目があり、「営業活動によるキャッシュフロー」「投資活動によるキャッシュフロー」「財務活動によるキャッシュフロー」の3つのキャッシュフローがあります。
「営業活動によるキャッシュフロー」は、普通に会社の事業を行っていて発生したキャッシュフローのことです。プラスならば本業できちんと利益が出ている状態。一方で、マイナスならば本業で利益の出ていない状態、と読み取ることができます。
「投資活動によるキャッシュフロー」は、有価証券や企業の設備投資などで発生したキャッシュフローのことで、通常企業は積極的に投資活動を行って事業拡大を図ろうとしているはずなので、このキャッシュフローはマイナスになっていることが多いようです。
「財務活動によるキャッシュフロー」は、現預金の借り入れや株式の発行を行った場合はプラスとなり、配当や借入金の返済、社債の償還などを行った場合はマイナスとなります。一般に、マイナスとなっているのが望ましいですが、ベンチャーなどの成長企業は資金調達を行っている場合も多く、プラスとなっていることもあります。この指標は後述のように、ほかとの兼ね合いで企業の経営判断の一因となるのかなと思います。
そして、次がとてもわかりやすいなと感じたのですが、この3つの指標がそれぞれプラスになっているかマイナスになっているかの組み合わせによって、ある程度その企業がどのような経営戦略をとっているか、ということやどういう経営状況なのか、ということまでわかってしまうのです。
キャッシュフロー計算書の3つの指標の組み合わせで、その企業の経営状況が推測できる
3つのキャッシュフローのプラスマイナスの状態を見ることによって、企業の経営状況を把握することも可能です。下記が、本書で紹介されていたキャッシュフロー表の組み合わせです。
営業活動によるC/F | 投資活動によるC/F | 財務活動によるC/F | |
---|---|---|---|
(1) 健全型 | + | - | - |
(2) 積極型 | + | - | + |
(3) 安定型 | + | + | + |
(4) 改善型 | + | + | - |
(5) 勝負型 | - | - | + |
(6) リストラ型 | - | + | - |
(7) 大幅見直し型 | - | - | - |
(8) 救済型 | - | + | + |
健全型、積極型、安定型、改善型についてはそもそもの営業利益が黒字と考えられるので、まずまず順調な企業経営を行っているといえるのは自明かと思います。もっとも、黒字のまま倒産する、などという例もあるので、そういった事例を取りこぼさないためにもP/LやB/Sを見ることが求められます。
一方で、勝負型、リストラ型、大幅見直し型、救済型については、そもそもの営業利益が赤字と考えられるので、この企業に投資する際には注意が必要、ということになります。固定費の状況や直近でどういった投資活動を行ったのかを重ね合わせて見て、企業が黒字化のために本質的な改善活動を行っていて、今後伸びていくであろうと判断できるのであれば、投資をしても構わないと判断できるかもしれません。
これらの情報をもとに、いくつか財務諸表を見てみるとおもしろい結果が出たので、ご紹介したいと思います。2016/3期の財務諸表を利用しておりますことをご留意ください。
東芝→救済型
東芝の2016年3月期のキャッシュフロー状況を見てみると、次のようになっていました。
2016/3 | |
---|---|
営業活動によるC/F | -1,230 |
投資活動によるC/F | 653,442 |
財務活動によるC/F | 135,747 |
(単位:百万円)
見て分かる通り、営業活動によるキャッシュフローがマイナス、投資活動によるキャッシュフローがプラス、財務活動によるキャッシュフローがプラスということで、上記の分類では「救済型」ということになります。企業の経営がかなり悪化していて、このままいくと倒産一歩寸前、という状況に1年前からなっていたということがわかります。
投資活動によるキャッシュフローがプラスということは、投資活動をほとんど行っていないということなのでしょうか?ということは、2017年度もこの状況があまりよくなることはないかもしれませんね。財務活動によるキャッシュフローがプラスということは、借り入れなどを行うことでキャッシュを懸命に捻出しようとしていることを物語っています。
2017年度の発表もリスケされたもののそろそろあると思うので、見ものではないでしょうか。
HIS→積極型
今日、旅行のパッケージを売り出す会社が1つ破産申請を出していて、もしかしてこの業界、闇が深い・・・?と思い、業界大手であろう(よく知らない)H.I.S.の決算短信を覗いてみました。締めのタイミングが少し他の日系企業と異なるようで、ひとまず2016年度の決算短信を参考にしました。
2016年度 | |
---|---|
営業活動によるC/F | 5,149 |
投資活動によるC/F | -15,440 |
財務活動によるC/F | 30,181 |
(単位:百万円)
出典: http://his.co.jp/material/pdf/2016_kessan_all.pdf
H.I.S.は去年時点では割と好調だったみたいです。近年のインバウンド増加もあることですし、引き続き事業拡大を企んでいるのでしょうか。投資活動によるキャッシュフローはマイナスになっています。決算短信を見ると、関連会社の株式取得などに投資を行ったと書いてありました。
ただ、キャッシュフロー計算書からはさすがにH.I.S.が今後も伸び続けるかどうかは判断できませんね。関連会社の取得、ということが書いてあったので、このあたりを掘り下げて、妥当な投資を行っているか?のチェックが必要かなあと思いました。
財務諸表から投資先を考えるにはうってつけの一冊
文字数が多くなってきたのと、ちょっと疲れたのでこのあたりで切り上げますが、株式をむやみに購入するのではなく、こういった企業が公表している通知表としての財務諸表を参照しながら、経営陣が適切な経営戦略を打っているかを判断しつつ購入するのが賢いやり方なのかなと思いました。
今日、投資の神様バフェットの本を立ち読みしていたら、「その会社を買うつもりで株を買う(だったかなあ)」という名言が載っていて、そのくらい丁寧に購入先を決めるのが肝要なのかも、と思いました。バフェットは、よく知らない業界の株は買わないという話も聞いたことがあります。
その会社を買うとして、その経営陣は信用できるか?今後も伸び続けてくれるか?を判断する材料として、キャッシュフロー計算書はその取っ掛かりを見つけさせてくれるいい表なのではないでしょうか。
ものすごく今更な感じですが、NPVやIRRといった企業価値分析に関する記載もあります。今回は紹介しませんでしたが、理解が深まったら機会を見つけて企業価値分析に関する記事も書いてみようかなと思います。他の会計の本とくらべて、図も多く内容も整理されていてわかりやすいので、ぜひ読んでみてください。
一生モノのファイナンス入門―――あなたの市場価値を高める必修知識
- 作者: 朝倉智也
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/03/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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