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気まぐれに書評とか。

人口減少は武器かもしれない?――『武器としての人口減少社会』

この手の本は本当に久しぶりに読んだのですが、とある読書会に参加するきっかけを得たので読んでみました。読書会では非常に有意義な意見交換ができたと思います。社会人になってからやる読書会は新鮮ですね。

ニュースを見ていると、「経済成長率の鈍化が」とか、「人口が減少してこの先は(お先真っ暗だ)」とか、そういう話がとても目立ちます。だからニュースを普段見る私たちはうすうす「もう日本はおしまいなのかな・・・」などと思ってしまいがちなのですが、まだ諦めるのは早い!と励ましの手を差し伸べるのが本書です。

日本経済はこれまで長らく「量」で稼ぐ経済モデルでした。しかし、だんだんと時代も移り、人口が減ってくる未来が現実味を帯びてきました。そこで必要な転換は「質」で稼ぐ経済モデルへの転換なのだと筆者は主張します。質で稼ぐとは、具体的には労働生産性を向上させるということです。

労働生産性を向上させるためには、これまで「定型業務」と言われてきた業務の比率を、移民やAIなどに任せるなどして減らし、「非定型業務」と言われる業務の割合を増やしていくことで利益率と収益率を高める必要があります。「非定型業務」はクリエイティブな業務と言い換えればいいでしょうか。デザインや企画提案などがそれに当たります。

ただ、「非定型業務」には高度な知能が必要です。なぜなら、これらの業務は今までの定型業務より頭を使う業務だからです。したがって、定型業務にもともといた人たちが、非定型業務に移ることは現実的に可能なのか、という問題があります。これはできるのでしょうか?

筆者によれば、それは可能なのだといいます。なぜなら、日本人の数的処理能力あるいは読解力は世界の中でもトップクラスだからです。つまり、知能が高いということです。しかし、日本は終身雇用システムや女性活用の不備といった状況によって、貴重な人材を大幅に持て余しています。これらの人材を活用する施策を打つことで、日本経済はまだまだ浮上可能です。

ところで、労働生産性を考える際に必ず上がってくるのが「イノベーション」という言葉です。これは非定型業務に携わる人間が最終的に目指す目標とも言えるものです。しかし、本書の中で扱われているイノベーションに対する施策は少し的はずれかもしれないと私は思いました。

本書では、労働生産性を向上したり、女性活躍推進を行うこと、さらには企業家精神の教育を早期から入れておくことなどを提案しています。しかし、どれも効果が限定的だろうなと思います。

少しイノベーションについて考えていきましょう。

まず、イノベーションは特許申請数で測れます。したがって、特許申請数に着目して議論をします。特許申請数は、アメリカが群を抜いて高く、次に日本・韓国・中国・ドイツなどが並びます。最近まで日本も奮闘していますが、しかし右肩下がりになっています。一方で中国は特許申請が爆発的な伸びを見せています。

なぜ、アメリカと中国は今になっても特許申請数が伸び続けているのでしょうか。それを解き明かすのは私は、本書の158ページに掲載されている「学術研究における国際ネットワーク図」だと思います。この図は、共著の論文の国別の関わり合いの深さを示しています。その2012年の図において、米国を中心としてみると中国の結びつきが最近では強くなっているようです。一方で、日本と米国との結びつきはあまり強くは見られないようです*1

ここからわかるように、とにかく他の国と協力しながら新製品開発を進める環境を早く日本に整えない限り、日本のイノベーションがより活発になるとは思えません。何かシリコンバレーみたいな企業特区を作って、そこに各国の企業や人材をどんどん入れ込むことによってしか、イノベーションは起こせないのではないでしょうか。イノベーションは知の集積によってしか起こり得ないのですから。

実際、私の会社でもイノベーションを今起こそうとしていますが、やっていることは外資系銀行で活躍していた外国人をたくさん会社に呼ぶことです。そこから思うに、イノベーションというのはやはり多様な人材が知識を寄せ集めてこそ起きるものだということです。

この点において、筆者の想定は少し甘いかもしれないと思いました。

本書から感じるエリート主義の危うさ

ここまで色々書いてきましたが、本書を読んで私が正直に感じたことはひとつです。エリート主義、です。エリートはそれでもいいかもしれないけど、みんながみんな起業したいとは思ってないし、女性もみんながみんなバリバリ働きたいとは思っていないということです。そして、そう思っている人たちが世の中の大多数であり、筆者のような意見はわりと少数派かもしれないということの自覚がもう少し必要なのでは?と読んでいて率直に感じました。

*1:改めて図を見直して思ったのですが、英国・カナダ・ドイツも結びつきが強いです。一方で、カナダは市場にそこまで新商品をもたらしてはいないようですし、特許数も少ないです。一概には言えないかもしれないけど、国際共著の論文を書くことが多い国は、イノベーションを起こしやすい環境が整っている傾向にあるといえると思ったので載せています