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気まぐれに書評とか。

【書評】『里山資本主義』

ここ半年、今後自分が生きる世界はいったいどうなっていくのだろうということを考える時間が以前よりも増えた。就活を目前に控え、少し人生について考えるようになったためだと思う。

私が思う、今後の世界の流れのポイントはいくつかある。その中で最も大きなものは、小規模集団が今後主流となるという点である。大規模な企業や都市あるいは行政といった単位は、人びとのライフスタイルの多様化やグローバル化の波、圧倒的で複雑な時代の変化に飲み込まれて、機能不全を起こしかけている。そんな中でこれから台頭するのは、小さな単位の集団であろう。すさまじいスピードで世の中の構造が変わる現代だからこそ、スピード感のある組織が勝つ。スピード感のある組織とは何かを考えたとき、やはり強いのは「小さな集団」である。

この大きな潮流に照らしあわせたとき、日本の現状はどうか。大都市に人・モノ・金が集まりすぎているというのが現状だろう。このままいくと、ただでさえ大都市行政で起こっている機能不全に拍車がかかり、大都市から日本が崩壊していくかもしれない。そんな中注目されるのは、地方分権をはじめとする「小さな単位」に依拠した政策である。大都市に集まり過ぎた人・モノ・金を、そろそろ地方に流してガス抜きをする必要が出てきていると思う。待機児童の問題などはいい例だろう。

本書は、そんな地方分権の威力を感じさせてくれる、格好の一冊である。高度経済成長期は、田舎は諦めの対象だった。だが、現代はむしろ憧れの対象となりつつある。

里山資本主義とはなにか?

里山資本主義とは、つまり里山で持続的な経済主体を創りあげようという試みのことである。具体的な例として上がっているのは、岡山県真庭市。ここでは以前は外部から買い付けていたエネルギー源を、地元の素材で生み出すことに取り組んでいる。具体的には木くずを利用した発電だ。

そして注目に値すべきなのは、今こういった動きは日本全国の地方都市ではじまっているということである。

さらに、里山資本主義の「ゆとり」は、日本の諸問題の解決を促す可能性もある。私は、今の日本の少子化や無縁化といった問題は、日本人全般の余裕のなさから生まれてきていると考えている。グローバル化の圧倒的な価格下落によって利益を生み出せなくなった日本企業が今いたるところに存在している。なんとか利益を生み出そうと必死なのだが、その裏で社員に長時間労働や厳しいノルマ設定などが強いられている。それによって、日本人には生活に余裕がなくなってきている。この流れは会社ひとつの力や社員一人の力ではまず変えられないだろう。ならば、日本の地方が協力して、大都市の人びとの「ガス抜き」をするのが大切なのではないか。里山資本主義は、その「ガス抜き」の可能性も含んでいる。

ただし、本書を読む時に注意したいことは、筆者は決して「日本全国を里山資本主義にしよう」と言っているのではないという点である。そうではなく、大都市(のマネー資本主義)と地方の里山資本主義を両立させ、いざというときのリスクヘッジをお互いで支えあいながらしようという提案をしている。リスクヘッジというのは経営においては最も基本的で当たり前の思考回路だが、行政ではそれがあまり進んでいない。それをこれから進めていこうという提案なのであろう。

本書内だったと思うが、「0か1で考えてはならない」という文章がどこかにあったと思う。これは激動の世界を考える上では非常に大切なキーワードである。世の中に100%という確率は存在しない。だから、少しでも可能性のある施策を臆せずどんどん試していく姿勢が大切である。0か1かで考えてどちらか一方の可能性を切り捨ててしまっては、チャンスをそれだけ失うことになるからだ。

関連書籍(2014年6月1日追記)

  • 『経済成長神話の終わり』(書評)もオススメ。この本では、経済成長に対抗する概念として「デ・クルワサンス(減成長)」という概念を提示している。本書と通じる部分も多いので、ぜひ一読してみることをオススメします。