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気まぐれに書評とか。

人間関係で疲れたら、どうしたらいいの? 

 書評で「この本はよい本である」と書くのはよくご法度とされますが、今回はそのご法度を破ってみたいと思います。この本はとてもいい本でした。帯の伊坂幸太郎のように涙まではでませんでしたが、日頃疑問に思っていたことや、最近悩んでいたことについて「対処の仕方」を教えてくれたと思います。

 そもそもこの本はアドラー心理学の考え方の概要を、プラトン並の対話形式で取り扱ったもので、一般の人にとってはものすごく読みやすい内容になっています。ですから、アドラー心理学に関して、あるいは心理学に関して、読む前に完全初心者だったとしても、きちんとエッセンスを理解することができます。

 ところで、プラトンの対話篇も本書と同じような形式をとっています。ほんらい、哲学書は知識のない人に対しても開かれたものであるべきで、哲学の役割のひとつは「問題意識の形成」だと私は思っていますから、この形式には大賛成です。久々に、哲学の真髄を見たように思いました。

 アドラー心理学と一般に比較対象とされるのはフロイトの心理学でしょうか。フロイトは、どちらかというと「こういう原因が積重なって、こういう結果が発生する」という議論の仕方ですね。しかし、これだと「では、人は過去とは訣別できない」というネガティブな結論が出てきてしまいます。フロイト的な発想だと、過去の「原因」に縛られた人生になってしまうためです。それでは少しさみしいですね。

人は変わる!

 したがって、アドラー心理学によれば、性格や気質(=ライフスタイル)は変えられるものだと言います。なぜなら、過去の原因と現在の状態とは関係がないからです。つまり、ライフスタイルを再び自ら選びなおすことができると。

 私は、長いこと「人間の性格は絶対に変わらない」というのは嘘だと思っていました。人の性格(というか態度)は、キッカケによって変わります。「この人嫌だなあ」と思い始めて、その人との対話をやめた瞬間、その人から「逃げている」。そう言っても過言ではありません。

 「性格が合わないからアイツ嫌いなんだよね」という言葉をこれまで散々耳にしてきましたが、そういう人は対人関係から逃げているにすぎないと思うんですよ。そういう人は、「相手の性格は変わらないものだ」と勝手に判断して、対話することで自らが傷つくことから逃げている。相手がそういう気に食わない態度を取ることには、何かしらの「行動目的」が存在していて、その目的を対話によって推し量り、相手を理解するだけの器は欲しいところですね。

 大事なのは、対話と理解です。対話から降りてしまっては、解決できる問題も解決できなくなります。だから、この「ライフスタイルは選び直せる」という点ついては、私の解釈がかなり混ざってしまいましたが、アドラーに賛成です。

 また、アドラーは「人生の悩みは対人関係である」とも言います。宇宙でもしも一人しかいなかったとしたら、人間に悩みは存在しないとまで言い放ちます。でも、これは納得ではないでしょうか。人と比べるから、劣等感を感じる。あの人の言動に傷つく。周りの人はああいう風に輝いているのに、自分は…等々。悩みは対人関係に由来することを知ってさえいれば、「ではどう解決していけばよいか?」という問題を吟味できますよね。

 最後に、もっともアドラーの話で納得できた箇所は「愛」に関する箇所でした。愛とは何かというと、「相手が幸せそうにしていたら、その姿を素直に祝福できる」ということなのだそうです。これは、性別や人種等に関係なく、あらゆる人間に対して抱ける感情でしょうね。この考え方は大切にしたいなと思っています。

 私はまだまだ未熟で、この「愛」については実現まで少し時間がかかりそうではありますが。やはり、他者の現状に執着してしまう自分がまだいます。しかし、他者は変わりゆく存在で、不確定の存在です。ありのままを受け入れられる、そんな器を持ちたい。

人間関係で疲れたら、どうしよう

 では、本書の解説をしたところで、この記事のタイトルに対する私の解釈を混ぜた答えを少し書いていきましょう。

 端的に答えを書くと、「人のことは構わず、とにかく自分の今この瞬間に集中せよ」ということになります。どういうことか。

 まず「人のことに構わない」というのを、アドラー「他者の課題には介入せず、自分の課題には誰一人介入させない」という言葉で表現します。つまり、他人のことには構わないし、自分の内面に他人を立ち入らせないという態度こそ、人間関係の悩みを解決する本質だと言えます。

 それはたとえば、悪口を言ってくる他人がいた場合にも同様です。まあ、悪口を言われる自分にも何かしらの原因があるのですから、多少は原因を知りつつも、でも基本的には無視。構うから余計に、悪口を言ってきてしまうんですよね。そんなこと、気にしたら切りがないですから、相手の心変わりを待つのが最も懸命な判断かと思います。

 「今この瞬間に集中せよ」というのは、禅でもよく言われることですね。過去の自分、過去の相手、あるいは未来の自分、未来について考え出したら切りがありません。変えられないものについて想像してもしかたがないのです。これは自分自身、よく胸に刻んでおく必要があると改めて思いました。

 アドラー心理学については、正直まだまだ「ん?」と思う箇所がいくつかあります。「すべての悩みは対人関係の悩みである」と言われて、ピンとくる人はそう多くはないはず。そのために、原書というものが存在するので、時間を見つけてアドラーの原書を読んでみたいと思いました。

嫌われる勇気―――自己啓発の源流「アドラー」の教え

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