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気まぐれに書評とか。

【書評】『老いてゆくアジア』

著者の本はいつも私にとってとても刺激的だ。前回の『消費するアジア』の際もそうだったが、新しい視点が常に提供される。今回も、「アジアでは予想以上に少子高齢化が進行している」という新しい視点をいただいた。

アジアではかなりひどい貧困状況をすでに脱しつつあると評価してもよい。となると当然問題になってくるのが、人びとが安心して暮らせる社会の設計ということになるだろう。だが、アジアはまだ社会保障をはじめとする安心社会の設計が進んでいない。年金制度の導入も一部でしかなされていない。このような問題はアジアの高成長を頭打ちにさせるかもしれないと懸念される。

さらに追い打ちをかけるのが、アジア諸国が、充分に豊かにならないうちに老いてゆくという事実である。これは中国をはじめ多くの国が該当する。中国はまもなく、生産労働人口の恩恵を与り、高度な経済成長を実現できる「人口ボーナス」の期間を終える。しかしながら、なかなか社会保障の整備が進んでいないようである。となると当然次に中国で問題になるのが社会保障の充実なのだが、そのころには13億人の社会保障を支えきれるような財政状況ではない可能性が高い。中国はこれが原因となって政情不安になるリスクも考えられる。

そこで、著者はアジアの包括的な福祉共同体の結成を提案している。国どうしで各国の福祉を支えあうのはどうかという提案だ。これには東アジア共同体も提案されている。

だが、これにも問題があり難しい。というのも、アジア諸国はEUとは違って経済状況が大きく異なるからだ。1人あたりのGDPが3万ドルを超える日本やシンガポールがいたと思えば、まだまだ発展しきっていないベトナムやラオスなども同地域にいるからである。また各国の政治体制も、民主主義をとる日本や韓国などとは違い社会主義をとる中国やベトナムまでさまざまだ。このような状況下で「共同体を結成する」というのは簡単な話ではない。

また、共同体の話に加えて地域内の自助的な地域福祉についても言及している。これについては日本は数多くのノウハウをもっており、他のアジア諸国に還元できる可能性も高い。日本の取り組みは無駄ではなかった。他の国に生かせるという意味で、日本人はもう少し自国の高齢化について誇りをもってもいいかもしれない。

「課題先進国」といわれる日本だが、アジア地域の高齢化という問題に対して、とくに課題先進的であると思う。日本の高齢化に対する取り組みは今後ますます他のアジア諸国に注目されるに違いない。難しい局面に突入している日本ではあるが、これからの政策次第で再びアジアからの尊敬を取り戻せるかもしれない、と感じた。