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使える場面は金融だけじゃない!生活でもいかせる!?金融工学―『金融工学、こんなに面白い』

金融工学、こんなに面白い (文春新書)

金融工学、こんなに面白い (文春新書)

 

  金融工学をお堅い学問、怪しい学問だと思っている人は多いはずだ。事実、私もそう思っていた。学ぼうと思った理由も不純で、会社で必要だから学んだにすぎない。もしも必要なければ、一生学ぶことはなかっただろう。 

 だが、それは偏見にすぎないことが本書を読んでわかった。難しいことは初学者なのでわからないが、金融工学は日常生活の知恵が詰まっているといえると思った。みんなが無意識的にやっていることが明文化され、定量的に表わされている。しかしそれはとても偉大な仕事なのだ。人は自分のやっていることを思った以上に把握してないのだから。

  本書は、金融工学に必要な初歩的な部分を、数式を使うことなく説明した一冊だ。数式アレルギーな方で、なおかつ少しだけ金融工学に興味がある方にはうってつけな一冊。まあしかし、私は数式があったほうがわかりやすいかな、とは正直思った。同じ筆者の書いたもう一つの金融工学の教科書の方が、新書版のこれよりもはるかにわかりやすかった。

  金融工学の肝は何かと考えて改めて本書を見返すとき、

  1. 市場は予測不可能なものであると痛感すること
  2. リスクを最小限にすることで、期待効用(すっごく簡単に言うと幸福)を最大化する

ことではないかと思う。

市場は予測不可能なものであると痛感すること

 私が一番最初に金融工学を勉強して違和感を覚えたことでもある。「市場は予測不可能」だからこそ「効率的」なのである、と筆者は言う。いやいや、金融工学って予想するためにあるんじゃないのと思っていた私は違和感を覚えた。

 だが、予測不可能なことがスタンダードなのだそうだ。予測不可能だからこそ、市場は完全であるという。ランダムウォークなのである、と。人はいままでに、その市場のランダムさに様々な規則を見出そうとして努力してきたが、あえなく失敗してきている。

リスクを最小限にすることで、期待効用を最大化する

 どういうことかというと、要するにリスクを減らして幸せを勝ち取ろうということである。本当にザックリした説明だが。

 その「リスクを減らす」というのが結構肝で、金融工学では「全体のリスクを把握し、回避できるものと回避できないものに分ける。で、回避できるものは回避する」という戦術を取る。また、できるだけ資産をたくさん分散して、いわゆる「大数の法則」を使ってリスクを最小限に抑えるという戦術を取る。

 30個の卵を運ぶ際どうするかという思考実験をしてみるとよくわかる。まず「カゴに卵30個もっていて、それを落として割ってしまう」というリスクは回避可能か不可能かというと、可能なリスクだろう。したがって、このリスクをさらに深く掘り下げて考えてみる。

 30個の卵をカゴ1つに入れておくと、一度でも落とすと30個ともすべて割れてしまう。これは「落とす」「落とさない」の2種類しか起こりようがないので、そうなってしまうのである。

 しかし、30個の卵をたとえば3つのカゴに分けて入れておくと、「1つのカゴを落とす」「2つのカゴを落とす」「3つともカゴを落とす」「全部落とさず持っていく」といったようにいくつかのパターンに分けられる。そうすれば、卵を割ってしまったとしても、30個すべて割ってしまうという確率は小さくなる。

 さらに、カゴの数を10個に増やすとどんどん卵を落とすリスクは小さくなる。母数を増やせば増やすほど、生じるリスクは小さくなるのだ。統計学で「大数の法則」というものがあったことを思い出す。

 この「いろいろ分散してリスクを抑えて、いいもの得よう(?)」という考え方が、金融工学の基本のひとつだ。

おわりに

 偉そうなことをたくさん書いたが、正直金融工学についてはまだまだわかっていない。学び始めたのが2週間前なので、わかるはずもない。これから理解を深めていきたいと思う。

 ただ、知的好奇心旺盛な私としては非常におもしろいと感じた。昔チャーチルが「エネルギーの要諦は1に分散、2に分散、3に分散」なんて言っていたことを思い出す。エネルギーは国家戦略の肝となる部分であるから、供給を失敗してしまうリスクを最小限に抑える必要がある。そういうとき、金融工学の知見は十分に役に立つ。

 ただ、金融工学の知見は十分に役に立つと書いてはみたものの、チャーチルは多分金融工学についてあまり知らなかっただろうとも思う。何がいいたいかというと、金融工学は難しい学問でもなんでもなくて、生活の実感値を数式に直してみたり、再整理してみたにすぎないもののはずだということである。

 そう考えると、ちょっとは楽しくなってくると思う。

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