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気まぐれに書評とか。

【書評】『はじめての政治哲学』

政治哲学という分野をご存知だろうか。あるいは、ひと昔前に「マイケル・サンデル」という名前を聞いた覚えがある人も多いだろう。サンデルが扱っていたまさにあれが、政治哲学のひとつである。

政治哲学は、要するに民主主義のもっともよい形はどれか?マイノリティをどう扱うべきか?多数決は本当に正しいのか?といった問題を扱う分野である。哲学にはさまざまに分野があるけれど、形而上学や科学哲学よりはより生活に密着しており、日常生活で直面する可能性の高い学問分野だと私は考えている。

なぜ政治哲学が今流行っているかというと、これは時代が求めているからだというのが根拠のひとつになりそうだ。核兵器の問題や原発の問題、さらには最近だと新大久保のヘイトスピーチにはどう対処すべきかなど、誰もが全会一致するような結論を導くのが難しい問題が今山積している。これらの問題を考える際のひとつの手段として政治哲学はある。

政治哲学に関連して哲学の話を少し挟みたい。哲学は、ある一定以上の時間をさいて基礎をつみあげなければ、理解がままならない分野だから、小難しいし堅苦しいと感じられる。社会人になってから哲学に時間をさく余裕はほとんどないと思うので、学生のうちにやるのがベストな学問だと思う。だが、そんな時間のない社会人でも、これから勉強しようと思っている学生にでも、本書はわかりやすくコンパクトに書かれているためにおすすめできる。

また、実際哲学が何の役に立つのかわからない、という人もいるだろう。哲学単体ではたしかにわかりにくい。形而上学などはその最たる例である。だが、たとえば、先日とりあげた、佐々木俊尚の『レイヤー化する世界』にマイケル・サンデルの主張をすこし加味したら、もう少し深みのあるものになると思う。また、近年重視されているCSRと哲学の一分野である倫理学を組み合わせれば、より論拠があり、有意義なCSR活動を行えるようになるかもしれない。このように哲学は、別のコンテキストに組み合わされることによって威力を発揮する。(もちろん、単体でも)

さらに、哲学書には示唆に富むテキストが多く含まれている。先日紹介したルソーの文などはそうだ。それらでは人間の特性や美点、あるいは欠点について、さまざまな角度から鋭い指摘がなされていることが多い。哲学者というのは鋭い問題設定をできたがゆえに成功し、後世に書籍が残存したとも考えられる。そういった人たちは必然的に特異な視座から物事をみつめることになる。哲学書という箴言集を読むことは、読者の思考領域をそれだけ広めてくれる結果になるだろう。哲学を学ぶことで幅広い視野を獲得でき、広い心をもった深みのある人間になれるかもしれない。

哲学なんて役に立たないと思われる方はぜひこの本を読んでいただきたい。また同様に、大学の勉強がどう役に立つのかわからないと思っているあなたにも――本書はおそらく、大きな衝撃を与えてくれるだろう。