ネットのウソ調査を見抜くために読むべき本ーー『「社会調査」のウソ』
日頃、新聞やネット記事にあふれている「調査」や「アンケート」をどれくらい信じられるだろうか?もし、それらが実は、信じるには根拠が薄すぎるものばかりだったとしたら?あなたはどうするだろうか。
実は、新聞の調査やネットのアンケート調査の結果というやつは、思った以上に信じるに値しないものが多い。なぜ、それらは信じるには早急かを教えてくれるのが、本書だ。
私たちは、もっと巷にあふれるアンケートや調査の類を批判的に見るようにしなければならない。誘導されてはならないのだ。
『「社会調査」のウソ』は、プロの社会学者である筆者が、日常生活で目にする新聞記事の調査や市民団体が集めるアンケート(筆者は、本書中でひたすらこれらを「ゴミ」と称す)の「胡散臭いところ」をひたすらボコボコに解き明かしてくれる。この本を読むと、目の前にあるアンケートを少しばかり批判的に見る力を養うことができることうけあいだ。
たとえば、次のアンケートを見てみよう。みなさんも、どこが怪しいかを少し考えてみてほしい。
「総合職女性6割『昇進など不利』/8割が『能力発揮』/『仕事続けたい』7割 この調査は総合職制度を採用している企業360社の女性を対象に、前年(1993年)の9月と10月に実施され、744人から回答を得た(続く) 『「社会調査」のウソ』p.29
この調査の問題点は、下記のとおりだ。(随分古い時代の調査だが、今でも時々ネット記事でこの手のアンケートを時々見かける。新聞は、さすがにやらなくなってきているように思うけれど。)
- 対象が「女性」
- 有効回答数
まず、対象が女性であるということは一番の問題だ。なぜかというと、アンケートはあくまで他との比較によって初めて意味をもつもので、比較対象が一切ないアンケートだからだ。このアンケートは、男性にも行うべきだった。
次に、有効回答数もなかなかやっかいな問題だ。よく、統計学だと「サンプル数が」という議論になりがちだが、実はこういうアンケートの有効性を見る上で重要なのは、有効回答数の方なのだと筆者は言う。
なぜかというと、結局回答する人というのは、その問題に関心の高い人であることが多いからだ。そして、有効回答率が低くなればなるほど、その問題に関心のある人しか答えていない確率が高まることになる。結果、そのアンケートはバイアスだらけということになるのだ。
この有効回答数(率)という観点はなかなか新しい観点ではないだろうか。最近はやりの統計学の本で浅知恵をつけただけだと、アンケートを見るとすぐ条件反射で「サンプル数が」という話にもっていきがちだ。しかし、サンプル数というのはあくまで統計的な有意性を決める話だったはずだ。有意性というのは、「その調査に意味があるか?」ということを示す数値ではない。本当にアンケートの含意を知りたいのなら、実は有効回答率を見るべきなのだ。
ちなみに、この調査では有効回答数がよくわからない。
本書から学べる、私たちが「調査」を目にした際に気をつけるべきポイントをまとめると次のようになる。
- サンプル数:極端に少なければ当然、まず統計として意味がない。
- 有効回答率:上に書いたとおりで、この確率が低すぎるとそのアンケートは恣意的なものである可能性が高い。
- 答えた人たちの属性:とくに市民団体が行うアンケートは注意。答える人は、その問題に関心の高い人がほとんどという点を考慮すべき。
- アンケートの目的:自分の主張を正当化するためだけに強引なアンケートを行っていないか。
- アンケートの項目:5がわかれば、4をやっていないかどうかがわかる。
これらの注意点を、これから「調査」の類を見た際に、反射的に思い返すといいと思う。批判的な目を養うためには、格好の一冊としておすすめします。
「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ (文春新書)
- 作者: 谷岡一郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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