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気まぐれに書評とか。

軍事の天才を学ぶことは、人生訓でもある

さて、先週に引き続き塩野七生ローマ人の物語』を読んでいる。今週は時間がたまたまあって、平日であったものの9巻を読み終えることができた。カエサルの前編は3巻から成っているから、残り1巻となった。

この巻では、カエサルはいよいよかの有名な「ガリア戦役」に出発することになる。ここがハイライトだろう。『ガリア戦記』にそって話は進んでいく。

ガリア戦記』は、昔ラテン語の授業で少し訳をした覚えがある。名文だ、と言われる。ガリア戦記の日本語版も読んだけれど、やはり名文だった。カエサルは文章がうまい。それは、1文1文が明確でとても短いからだ。文章の短さはリズムを生む。それはそのまま、文章のうまさにつながる。

前回、カエサルはとても読書家だった、と書いた。塩野は「カエサルは最高の知性である」というほどだ。知性を持つ人は、それだけ人に伝える力も半端ではないのだと思う。

ガリア戦記のハイライトは、個人的にはブリタニア進出だと思っている。なぜなら、ブリタニア進出はカエサルにとってなかなか困難な事態だったと思うからだ。

ブリタニアは現在のイギリス。そこで、カエサルはまず上陸から苦戦する。はじめての土地だったため、土地勘がない。だから、岸に敵の兵士が待ち構えていて、攻撃をされるというシーンが多々ある。ここでまず苦労する。

大陸から遠く離れた島に上陸するということで、兵士たちは多くの荷物を持っていた。そのため、上陸の際にどうしても動きが遅くなり、敵に襲われるという事態が起こっていた。カエサルはその事態をよく観察して見抜き、途中から身軽な軍船を先に岸につけるようにする。ローマ人は陸上では最強だから、敵をどんどんなぎ倒していく。それに後続が続く。こうして、ブリタニア上陸は成功した。

私は、カエサルの強さはこの観察眼にあったと思う。とにかくカエサルは戦場をよく観察している。観察された事実をもとに、よく考え適切な推論を論理的に導く。この力が半端ではない。いくつものピンチを、この観察眼で乗り切る。これがカエサルだ。

カエサルのアイディアは、こうした観察眼に原動力がある。カエサルのアイディアひとつで、非常に危険な状況だった戦況が瞬く間に逆転する瞬間が、ガリア戦記にはいくつもある。

私はカエサルのあれこれを読んで、指揮官には観察眼が不可欠なのだということを学んだ。それは、日常の仕事においても変わらないと思う。よく周りを観察し、問題を発見する。そしてその問題を適切に解決するためのアイディアをひねり出す。

アイディアは、別に高度なものでなくてもよい。少し機転を利かせたものを、ストレートに実行すればいい。難しいことは何も考えなくていい。ビジネス書に登場する華麗な経営者たちのようなアイディアでなくともよい。ただ、その解決するアイディアを打つタイミングを間違えなければいいのだと思う。

ガリア戦記には書かれていないことに関しても想像しなければならない。カエサルの作戦は華麗なように見える。だが、実はその作戦の前には10回の失敗作戦があったのかもしれない。カエサルガリア戦記にはハイライトしか書いていない。ここに惑わされてはいけない。ひとつのすばらしいアイディアの裏側には往々にして、何回もの失敗がある。試行錯誤の末だした結果が、たまたまよいアイディアだったのかもしれない。

このローマ人の物語9巻は、ガリア戦記の最高のガイドだと思う。こちらを先に読んでからガリア戦記の該当箇所を読むようにすると、ガリア戦記をとても楽しめる。カエサルは自分の私情はガリア戦記に一切書かない人だったけれど、ローマ人の物語にはカエサルの私情が書いてある。それらを照らし合わせながら読むと、カエサルが戦場で何を考えていたかの理解が深まる。それは、そのままガリア戦記の理解につながる。

ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中) (新潮文庫)

ローマ人の物語〈9〉ユリウス・カエサル ルビコン以前(中) (新潮文庫)

ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)

ガリア戦記 (岩波文庫 青407-1)