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気まぐれに書評とか。

『問いかける技術』

今週はロジカルシンキングの講習だった。こういう講習を行う会社はすくないだろう。コンサル系だけいかもしれないけれど、ロジカルシンキングというのはビジネスをする上ではなくてはなならないスキルだ。

問いかける技術――確かな人間関係と優れた組織をつくる

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私はこれまでの人生で事業計画を作成したこと、そしてそれを実行したことが何度かあるけれど、最初の事業計画を作る際にロジカルシンキングがまったくできずにとても苦労した覚えがある。それ以来、ロジカルシンキングはとても重要なものとして認識していた。

しかし、今回の講習ではそのロジカルシンキング以上にビジネスにおいて重要ではないかと感じるものがあった。それは、「問いを立てる」ことであり、さらに掘り下げるならば「問いかける技術」であった。

問題解決はよく、その解決のステップに注目されることが多い。たとえばフレームワークと呼ばれる類のものがそうだろう。MECEやイシューツリー、ロジックツリーなどは、最近のビジネス書ならだいたい書いてある項目だ。そういった点で、問題解決能力といえば解決のスキルだと勘違いしている人も結構いるだろう。

だが、問題解決にもっとも必要な物は「問題設定」の力なのだ。問題設定が誤っていたら、そもそも解決する方向性を間違えてしまうことになるし、結果として導かれる解も間違っていることになる。解決の力なんていうのは、正直だれでも短期間で身につけられる。しかし、問題設定能力、つまり「もののみかた」というのは一朝一夕では身につかない。だから、問題設定能力は貴重なのだ。

たとえば、これは医者の例で考えるとわかりやすい。医者は患者から身体の不具合を聞いて処置方法を判断するわけだが、その際患者のいうことを全面的に信じて処方を行ったとする。そして、後日患者が「まだ治ってない」と病院に来た。ここからわかることは、医者は患者の病気の原因を見誤っていたということだろう。病気の原因を見誤ったがゆえに効果のない処方を行ってしまい、結果として病気が直らなかった。こういうことは、結構ビジネスでも頻繁に発生する。

そしてこの問題設定能力を磨く力として、私は「問いかける技術」が重要だと感じるのだ。

この本を買って、そのあとがきで読んで知ったことなのだが、本書はシャイン経営学の創始者シャインが書いた一冊である。

本書のキーワードは「謙虚に問いかける(humble inquiry)」である。まず本書では、「謙虚さ」を3つに分類する。基本的な謙虚さ、任意に示す謙虚さ、今ここで必要な謙虚さである。基本的な謙虚さというのは日本社会によくある「年上は敬え」だ。任意に示す謙虚さとは、たとえばノーベル賞をとった人が目の前にいるときに示す謙虚さだ。最後に今ここで必要な謙虚さというのは、上司や先輩が、部下や後輩に示す謙虚さだと思っていい。普段は必要ないが、一瞬だけ必要になる謙虚さのことを言う。

私も部下(後輩?)をもって実際にマネジメントした経験から、「謙虚に問いかける」ことはほんとうに難しいと感じる。上司あるいは先輩としてのプライドが、どうしても部下に謙虚に問いかけることを邪魔してしまう。このプライドを排除できるかが、まず問いかけをできるかどうかの勝負になってくるといっても過言ではない。突き詰めると、人としてのあり方がいい問いかけを生み出すと言い換えることができる。

いい問いかけができるかどうか、そしていい問いを立てられるかどうかは、「スキル」や「技術」などではなくて、「人間としてどうあるか」によって決まるということを本書で学んだ。実際そうだろう。いい問題設定をできる人というのは、目の前の常識を疑い、真理を探求し、さらにいうと謙虚に人を観察しそこから学ぶ人に多いと思う。大前研一氏はそうだと思う。

話は変わるけれど、本書を読みながら、私が興味をもった問いがひとつあった。それは、「キャリアを積んだり、歳をとったりしても謙虚でいるためにはどうしたらよいのだろうか」という点だ。実際、人は実績を積み上げるとどんどん天狗になる。しかし、危険なのはそうなってしまったときだ。そのとき、他人を雑に扱ったがゆえに没落した偉人はたくさんいる。だから、そうならないためにどうしたらよいのだろうかという問いが、私の中に一つたった。

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

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