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気まぐれに書評とか。

『プラグマティズム』

さて、少し前に読んだ本なのだが、3月中になんとか書評を書きあげねばと思っている哲学書が何冊かあるので、皮切りに書きたいと思う。

プラグマティズム (岩波文庫)

プラグマティズム (岩波文庫)

哲学書の書評を書くことには少し抵抗がある。というのも、誤った哲学の情報をネットの海に流すと、誤った解釈が広がりかねないからだ。そして何より、本の内容まとめなどについては、すでに哲学者の方がたくさんネットに投げてくれているので、私が解説を書く必要がまったくないとも感じていた。したがって、哲学書の書評は、仮に読んでよいと思った本であっても書かないようにしていた。

ウィリアム・ジェイムズという人が書いた『プラグマティズム』という本である。ジェイムズという人は、心理学でも名著を残していたように記憶している。読んだことはない。哲学者でもあり心理学者でもあるという多彩な人だと私は思う。

プラグマティズムというのは19世紀のアメリカで流行った思想で、パース・ジェイムズ・デューイなどが中心となって広めたと言われる思想だ。ひとつの哲学思想が別の分野に影響を与えるというのは、構造主義などをはじめとしてたくさんの事例があるが、プラグマティズムもご多分にもれずその一つである。物理学や統計学などに多大な影響を与えたと言われる。

プラグマティズムという言葉をはじめて聞いた方も多いと思うが、『プラグマティズム』内で紹介されている一文を引用すればだいたい事足りると思うので、下記にひとつ引用を添える。

パース氏は、われわれの信念こそほんとうにわれわれの行動を支配するものであることを指摘した後で、次のように述べている。およそ一つの思想の意義を明らかにするには、その思想がいかなる行為を生み出すに適しているかを決定しさえすればよい。その行為こそわれわれにとってはその思想の唯一の意義である。 (p.53, 強調は筆者)

マッキンゼー本を読むとかならずでてくる有名なフレームワークがひとつある。それは、「事実→解釈→行動」というフレームワークだ。詳細な説明は長くなるので割愛するけれど、このフレームワークでいうところの「行動」の有意性に焦点をあてたのがプラグマティズムだと言っていいだろう。

ある思想を学んだとして、その人の行動が変化しなければ、その思想に意義はないというのがこの文章の主張だ。たしかにそうかもしれない。言葉を変えれば「結果主義」というのがあてはまるだろうか。つまり、思想を発表することが思想のゴールなのではなくて、思想を通じて世の中の人々の行動を変える事こそが、思想の終着点であるべきだということになる。

そして、ジェイムズはそういった思想は次のような存在であるという。

してみるともろもろの学説なるものは、そこにわれわれが安息することのできる謎の解答なのではなくて、謎を解くための道具であるということになる。(p.60)

思想が目的になってはならない。あくまで、自らの問題意識を解決するものとして、思想は存在しているに過ぎない。そして、ここから先はべつにジェイムズがいったわけではないが、思想の細かい文章の解釈をめぐる批判は、私はあまり意味がないかなと思っている。これはプラグマティズムもそのように考えるはずだ。なぜ意味がないかというと、その人にとって役立つ思想であれば、その人が勝手に真理として認めればよいだけの話だからだ。全体として言ってることが合理的で、次に行動につながるような思想であれば問題はないだろう。

ところで哲学というのは、やはり真理を求めるという属性を捨てきることはできない。世の中の極致とはいったい何なのかを、知りたいと思うのが哲学者である。真理というのはもちろん、怪しげな意味ではない。真理とは、自分にとって納得できる究極的な答えのことだ、くらいに私は思っている。別にこの定義とは関係がないが、ジェイムズは真理について次のように語る。

われわれの観念が真理であるというのは、その観念が「働く」力をもっているということであるとする見方なのである。(p.65)

ここで、有名なプラグマティズム道具主義というか、「使えるものは真理だ」みたいな考え方が読み取れるように思う。

この本は、このあとの章でひたすら「合理主義」「経験主義」ならびに「一元論」「二元論」の話が続く。最後くらいにプラグマティズムと宗教の関係や、プラグマティズムヒューマニズムの関係などが続く。哲学徒が読むと結構勉強になるのだが、一般の方であれば、本書の2講以降は飛ばし読みでも構わないかな…というのが正直な感想だ。興味のある方は、せめて2講だけでも読んでみてはいかがだろうか。

なお、最近はプラグマティズムが流行りなのか、結構プラグマティズムとタイトルにつく本を見かける。ぜひ一度、読んでみてはいかがだろうか。

プラグマティズム入門講義

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希望の思想 プラグマティズム入門 (筑摩選書)

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民主主義のつくり方 (筑摩選書)

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この本はプラグマティズムを使って、民主主義の作り方を検討するのでおもしろい。

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