『今こそケインズとシュンペーターに学べ』
いまこそ、ケインズとシュンペーターに学べ―有効需要とイノベーションの経済学
- 作者: 吉川洋
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2009/02/27
- メディア: 単行本
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先日読んだ水野氏の著書を読んでから、どうにも「経済学」という学問が気になってしまい、経済学に関する本を読むことにしました。その第一弾が、『今こそケインズとシュンペーターに学べ』でした。
結論から行くと、この本は経済学の初学者の方にとくにオススメできる本だと思う。ケインズとシュンペーターという名前を知らなくとも、筆者が優しく解きほぐしながら解説をしてくれるから、大丈夫。途中で数式が少し出てくるけれど、前後の解説から読み解くことができます。現在大学で教えられているマクロ経済学の導入に、本書は非常に役に立つと思います。*1
私は経済学部の人間ですから、ケインズもシュンペーターももちろん知っていました。ケインズについては現代では「マクロ経済学」として、シュンペーターについては経営学の授業で登場しました。ケインズといえばやはり、有効需要の原理でしょう。そしてシュンペーターといえば、もちろん、「イノベーションこそが経済発展の原動力だ」といった経済学者ですね。
ケインズ
ケインズは理論家で数式ばかり扱っていた学者だ。そういう印象を持つ人も少なくはないはずです。しかし、それは偏見で、ケインズは思った以上に現場に赴き、現実と対話しながら経済学を構築していった学者でした。
ケインズはもともと経済学者になる予定はなく、どうやら数学科に所属していて将来的には数学者になる予定だったのだそうです。しかし、学生時代に受けたテストの成績の悪さに嫌気が差し、数学者は諦めたらしい。代わりに官僚を目指すことにしたんだそうです。官僚になるためには勉強が必要ですよね。この勉強のプロセスの中ではじめて、経済学と出会ったのだそうです。したがって、経済学の基礎教育を受けていた学者ではなかった。
ケインズはその後、一旦インドで働くことになりました。その際、彼の彗眼を発揮することとなった。インドに行ったレポートでなんと、その当時スタンダードだった金本位制の否定を行うのです。彼はファクトを集めて思考することが非常にうまかった印象を私は持っています。
ケインズは、彼の経済学の中でしきりに「投資の重要性」を主張します。投資こそが景気循環を握る最大の鍵なのだと。最終的には「有効需要の原理」として、投資が増えればその分GDPは上昇するという理論を打ち立てることになりました。
シュンペーター
一方でシュンペーターはどういう人だったかというと、彼はオーストリア生まれでいわゆるオーストリア学派に属することになります。彼の存命中に大戦が起こり、シュンペーターは「オーストリア・ハンガリー帝国」という祖国を失うことになりました。
彼はケインズとは対照的に、順調にアカデミックの人間として出世していきます。1911年にグラーツ大学の教授に就任した後は、1913年にアメリカのコロンビア大学に渡りました。なお、1919年にはオーストリアの大蔵大臣、さらには銀行の頭取など、なかなか波瀾万丈な人生を送っています。
シュンペーターは「経済成長」という概念の生みの親、などと言われることがあります。経済成長について真剣に考えたのは、おそらく彼が最初だったためでしょう。そしてその発想もまた、なかなか独特でした。
シュンペーターは「イノベーション」を重視した経済学者でした。一国の経済が発展するためには、かつての生産手段とはまったく異なる方法で生み出されるsomethingが必要で、それを達成できるのが「イノベーション」なのだと言います。創造的破壊とも呼ばれますね。シュンペーターはイノベーションの経済学者でした。
また、ケインズが「不景気は悪だ」と一貫して糾弾したのに対し、シュンペーターは「不景気は必要悪だ」と考えていたようです。好況時に発生した経済構造の変化を吸収し、システムに結合させるために不況というものは存在するとシュンペーターは考えていたのだそう。この考え方、なかなかおもしろくないですか?
人生後半のシュンペーターは、「景気循環」の話や「資本主義の今後」の話に注力していくことになります。その中で、社会主義に異様とも言えるほど執着を見せていました。これも、きっと何か理由があるのでしょうね。(忘れちゃったので詳しくは本書をご覧ください。)
日本に適用できる話か?
ケインズやシュンペーターは現代の日本にも生きています。この前の月曜日の日経新聞にも、日本とドイツの比較としてケインズとハイエクの名前が上がっていました。日本はどちらかというとケインズ的で、政府が「賃金をあげろ!」と言ってみたりする国ですね。
ただ、私は彼らの思想を安易に現在の日本経済の分析に使うのはナンセンスではないかと思います。なぜなら、ケインズやシュンペーターが生きていた時代と、現在とでは、圧倒的に時代背景が異なるからです。インターネットなんて、昔はなかったでしょう。ケインズに至っては投資行動を扱うわけです。昔と現代とでは投資行動に圧倒的な違いがあることは明らかです。ボタンひとつで取引が済む時代ですからね。
しかしながら、思考実験のためにあえてその禁忌を犯してみようかと思います。ケインズとシュンペーターを使うと、なぜ日本経済はこれまで伸び悩んできたのか、そして未来はどうすべきかがなんとなく見通せます(かなり抽象的な話にはなりますが)。
なぜ、日本経済が行き詰まったかというと、結局バブル崩壊後に投資が滞ったことにより、ケインズ的な「有効需要」が減ったことにあると考えられます。その御蔭で供給過多が起こっていた。
しかし、近年アベノミクス効果によって投資が増加し、人手不足を発端にむしろ供給不足が起き始めています。これはいい現象なのではないでしょうか?
ただ、このまま供給不足の状態が続いてしまってはなりません。供給不足で再び投資がダウンし、経済を縮小させかねないからです。そこでシュンペーターの出番です。今こそイノベーションを起こし、有効需要を伸ばすのだ!!!
・・・かなり楽観的な話ですが、しかし私は同じ吉川洋氏の本の中で同様の主張をみた気がしますよ。『デフレーション』という本だったかな…。少し強引にケインズとシュンペーターを使わせていただいたので、その道の人は怒るかもしれません。しかしながら、ケインズとシュンペーターを組み合わせて今後の経済の見通しを考えるという思考実験は非常に楽しいもの。ぜひ、本書を読んで一度、思考実験をしてみてください。
もっとも、私が気になっているのは「イノベーションはどのように起こすのか?」という部分。クレイトン・クリステンセンも、シュンペーターを参考にしたのか「破壊的イノベーション」という概念を打ち出していますが、まさにこの「破壊的イノベーション」こそが、シュンペーターに言わせれば経済発展を促すのです。しかしながら、果たしてイノベーションはどのように起こすのか?
私は、いくら企業に投資をしてもイノベーションは起きないと思います。むしろ、それをいかす頭脳をこそ、育てるべきだ。そう思うんですね。だから、もう少し教育費に予算を割くべきなのは言うまでもないと思います。ただ、この教育というものにも問題点があり、機会平等など様々な問題を抱えています。あと、結局「蛙の子は蛙」、つまり優秀な子どもたちを育てるためには優秀な教師が絶対的に必要なのですが…。教育分野は、あげだしたら切りのないくらい問題山積です。ここをどう解決するかに、破壊的イノベーションの可能性はかかっていると言えるでしょう。
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき (Harvard business school press)
- 作者: クレイトン・クリステンセン,玉田俊平太,伊豆原弓
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経済発展の理論―企業者利潤・資本・信用・利子および景気の回転に関する一研究〈上〉 (岩波文庫)
- 作者: J.A.シュムペーター,Joseph A. Schumpeter,塩野谷祐一,東畑精一,中山伊知郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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- 作者: J.A.シュムペーター,Joseph A. Schumpeter,塩野谷祐一,東畑精一,中山伊知郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1977/11/16
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- 作者: 吉川洋
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