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気まぐれに書評とか。

『資本主義の終焉と歴史の危機』

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

 

書店に行くといつもランキングの上位の棚に置いてあり、結構売れているらしいということで買って読んでしまいました。前回の同じ水野さんの新書はたしか大学1年の頃に読んだ覚えがあって、なかなかおもしろかったように思ったので、買ってみた。しかし、3年もしないうちにちょっと衰えましたかね?

本書の内容には一旦触れずに一度、世の中のおおまかな流れとしてお話をしようと思います。書店を見ていると、売れてる本は次の2つ。1. 徹底的に韓国と中国をこき下ろす本。2. 日本とアメリカ(新自由主義)はもう終わったと言い放つ本。3. 「教養本」。今回は2番めですね。したがって、売れている。

本書は売れている部類にはたしかに入りますが、その中身については議論の余地があると思いましたよ。むやみに礼賛してしまうと間違った方向に行きかねない。入念に批判され、その主張が吟味されることを強く望みます。もっとも、Googleで書評を調べてみたら案外批判的な書評が多く、世の中捨てたもんじゃないなと思いましたが。

こういう点を鑑みた時に、世の中に本書の主張が受け入れられてるのかというと…どうなんだろう。アマゾンのレビューを見る限り、「水野さんだからすばらしい」みたいなレビューが多くて、本書の内容について的確に議論できているレビューがなかったことに象徴されているような。少なくとも私は、「新書だからしょうがないと思うけれど、ちょっと根拠が薄いなあ〜」という印象を持ちましたよ。徹底的にグローバリゼーションを批判した後、「ではどうしたらいいんですか?」という部分がイマイチ甘かったように思う。その点、ほかの書店キャンペーン本と変わりません。という批判を少しさせていただきまして。

さて、本書を簡単に要約させていただくと、それは次のようになります。資本主義という論理大系は、「利潤」をあげることを前提としている。しかし、現代においては、資本利潤率が低下の一途をたどっている。このことは、資本主義の機能停止と限界を示していることにほかならない。だから、資本主義は終焉するのだ!

あとは、本書ではおもに16世紀の価格革命のお話と現代の状況が非常に似ていて、このままいくと歴史が示すように資本主義が限界を迎えるよ。現代において、価格革命が起きて価格が暴騰しているのは、食糧と原料だ。そして、この価格革命とはすなわち「歴史の危機」であり、歴史の危機を通じて16世紀に起こったことは「実質賃金の減少」だった。似たようなことが21世紀の現在でも起こってきている。

という話です。原料については最近下がり始めちゃってるんですけどね(笑)。

本書を読んで疑問に思った点は以下の2点。

  1. 過剰設備が問題だというが、どのようにして設備投資を「過剰である」と判断したのか?
  2. 日本は外需(輸出主導)で成長したのでしたっけ。

1については、私が経済音痴なだけかもしれません。これについては調べれば出てくるという話なのかも。けれど、本書を読んで一貫して疑問だったのがこれ。何か出典を書いておいていただければと思いました。*1

2については、日本はそもそも輸出主導で成長した国だったのかというのが疑問です。たしかに、捉え方によっては「輸出主導だった」といえるのかもしれませんが、ではそうなると「輸出主導」とは何か?――この問いに対する答はなかったように思います。

輸出主導とは何か?輸出の金額が国内だけの経済消費金額よりも大きいということ?そんなことってあるのでしょうか。GDPに対する輸出額の占める割合?だとしたら、かなり小さいですよ。輸出額がGDPに占める割合を見ると、日本は15%程度とも言います。一方で、中国は36%、シンガポールに至っては206%などというデータもありました。果たして、本当に日本は「輸出主導」だったのでしょうか。そして、中国も同様に「輸出主導の経済」なのでしょうかね。輸出主導とは何かについて、本書では語られていないのでそこはわかりませんが。

そしてなにより、日本が輸出大国だというのは早晩かなと、おとなりの韓国を見ながら最近思います。日本経済が強かったのはむしろ、戦争で焼け野原になった後の旺盛な国内の購買意欲に会ったと私は思います。データがあるわけではないので、これは直観の域をすぎませんが。どのデータを見れば立証できますかね。ちょっと探してみます。

だから、2については特に「あれ、本当にそうだったっけ?」という思考が必要になってきますね。近年の新興国の発展も、本当に「輸出主導」”だけで”成り立っているものなのでしょうか。人口の増加率が著しい状況下でそれはないだろう…というのが、常識的な見方ではないでしょうか。したがって、輸出主導の発展途上国経済では、先進国に購買力がないから過剰設備投資が怒り、結果としてバブルが起きるだけだみたいな考え方は、ちょっと違うかもなあと思いました。

ところで、本書では共感した点もありまして、それは、グローバル資本主義のあまりの発展により、二極化が進展することで、中間層が没落する。中間層の没落は、民主主義の崩壊を意味する。なぜなら、民主主義は中間層によって成り立っていると言っても過言ではないからだ、というお話でした。ここに納得したんですね。

私自身本書を読んで思ったことは、資本主義の崩壊よりもむしろ先に民主主義の崩壊がやってきそうだということ。いや、民主主義というとちょっと語弊があるかもしれません。なぜなら、民主主義というの一言で言い表すことが難しいからです。だから、崩壊しているかどうかもわからない。したがって、民主主義が崩壊しているというよりかは、「既存の政治システム」が徐々に回らなくなるという現象が起きていると言い換えます。そしてこれが真相でしょうね。そして、この既存システムの不活性化こそが、グローバル資本主義の二極化が引き起こした最大の問題でしょう。

既存のシステムは、ある程度自由で裕福な中間層によって支えられていました。この中間層がなくなったということは、政治の担い手が変わったということです。昔の江戸時代で言うと、農民がごっそり抜けたということと同じことだと思うんですね。これが現代で起きていると思うと大きな変化ではないでしょうか。

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

 

 

*1:このへんはケインズのお話のぶり返しですか?