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気まぐれに書評とか。

新自由主義はすたれたが・・・

 先日図書館を物色していたら、なかなか興味深い新書を発見したので読んでみました。ページ数も適量で、筆者の文章も非常にうまく、読みやすかったのでおススメ。ただし、経済学を専攻している(いた)人にとってはなじみのある内容であり理解も容易ではありますが、経済学以外の専攻の人は案外読みにくいかもしれないです。 

 「フリードマン」「ハイエク」「新自由主義」「コース」「ガルブレイス」・・・これらの名前を授業で聞いたことのある方は多いと思います。しかし、実際に何を言った人で、どういう人生を送っていて、どういう研究を行ったか、ということまでご存知の方は少ないはず。人間、名前だけ知ってはいるけれど、肝心の中身を知らないーーそういうもの、結構ありますよね。

 余談になりますが、名前だけしか知らないにも関わらず、その人物について平気で知っている顔をする人は結構います。とくにうちの大学だと変にプライドの高い人間が多く、たとえばウィトゲンシュタインの「語りえぬものについては沈黙しなければならない」という言葉を知っている=ウィトゲンシュタインを知っていると勘違いしている学生が多い。彼の論考が、「世界は事実の総体であり、ものの総体ではない」という言葉から始まることを知っている人はほとんどいないんでしょうね。

 こういう状況は恥ずべき状況なので、ぜひとも打開したい。そういう思いから、最近は「知ってるけど中身あんまわかんねーや」を潰そうと、個人的にもがんばっています。

 さて、新自由主義についてざっくり語るとするならば、結局のところ新自由主義は一時期と比べて勢いが劣り始めているといったところでしょうか。たしかに、フリードマンなどは主張が過激ですし、過激なものに対しては過激な反応を見せたくなるというのが人間の本性なので、相当なバッシングを受けました。ただ、新自由主義は、現代の問題と新自由主義そのものとは直接関係がなさそうに見えるにもかかわらず、濡れ衣を着せられている感も否めないのでは、というのが個人的な見解です。貧困問題などは、決して新自由主義が悪かったというのではなく、経済の構造がそうなりつつあったところにたまたま新自由主義がやってきてしまった、というのが本質なのではないかという仮説を持っています。

 新自由主義の勢いは以前と比べて劣っているものの、しかしその主張内容は今後の世界経済にとって必須のものを含むと考えています。たとえば、政府は小さくあるべきだという主張。もはや、財政的に余裕のある政府は先進国においてはほとんど存在しないでしょう。そういった状況下で大きな政府を主張するのは、少し非合理的とは言えないでしょうか。人口のパイが近代と比べて大きくなりすぎたのだから、当然経済構造の変化や財政構造、さらには統治構造の変化が起こります。それらの変化に柔軟に対応するsomethingのひとつとして、新自由主義はアリだと個人的には考えているのですが。

 ここからは簡単に立場表明をしたところで、本書の内容について批評を加えていこうと思います。

人物伝として楽しめる

 経済学部の学生であれば、経済史(あるいは経済学説史)という授業をとったことがあるはずです。しかし、うちの大学では残念ながら、経済学説史はケインズ止まりでした。ケインズ以降の経済学者についての説明を受けたことが一度もありませんでした。したがって、本書は僕にとっては非常に有意義なものでした。

 フリードマンの登場は、僕はシカゴ学派の隆盛と切っても切り離せない関係にあると思います。シカゴ学派が存在せず、シカゴ学派が大勢を占めるようにならなければ、フリードマンの成功はありえなかった、と本書を読み終えた後に思いました。そのくらい、「どういう流れの中に思想家はいたのか」を考えることが重要。

 それと、サミュエルソンについては実はほとんど存じ上げなかったのですが、今回の読書でだいたい考え方がよくわかりました。先日も教授が授業で言っていましたが、サミュエルソンは、少し前の経済学部では絶大な人気を誇っていたようですね。今でこそ、スティグリッツやマンキューといった経済学者の出版する教科書に人気が集まっていますが、一昔前はサミュエルソン一択だったとか…。今からでは想像もつきませんね。でも、僕自身はサミュエルソン的な立場が、一番批判を受けにくそうでいいなあというのは思ったりもします。

 僕自身、現状経済学的な立場でどれをとるか、選択している段階なので、いろいろな思想にふれることができて有意義な時間でした。新自由主義が必ずしも極悪非道な思想ではないと考えています。そういう人は、「資本主義と自由」をはじめとする新自由主義の著作をきちんと読んだのか、疑問でもありますしね。引き続き、変な偏見を持たずに思想を学んでいき、立場を決めていきたいと思いました。

市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影 (中公新書)

市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影 (中公新書)