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気まぐれに書評とか。

今ほど「デザイン思考」が必要とされている時代はない―『デザイン思考が世界を変える』

 

デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

デザイン思考が世界を変える (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

読んでしまった。「デザイン」と名のつくものは買いたくなってしまう傾向にあるが、この素敵な表紙(とくにこのフォントが好きなのだ) と刺激的なタイトルに惹かれて、即購入。

実は、買った当初はハウツー本であることを期待していたのだ。デザイン思考なんて、そんな途方もなく長い道のりのようなものを、わずか700円程度の薄い文庫本で丸ごと理解できるのであればと思って購入した。実際はどうだったのだろうか。それは、この書評の後半部分で語ろう。

さて、「デザイン思考」とはなんだろうか?一言でいうのは難しいが、私なりの解釈でいくと、旧来デザイナーだけがやっていたような思考方法を、一般企業や社会問題をはじめとする大きな問題に積極的に導入していこうという流れのことをさしていると思う。ただ「デザイン」と一口にいっても、デザインすることだけにとどまらない。

デザイン思考では、デザイナーたちが長きにわたって培ってきたスキルを利用する。デザイナーたちは、ビジネスの実務的な制約の中で、人々のニーズと利用可能な技術的資源を結びつけようと模索してきた。つまり、人間的に望ましい物事と、技術的・経済的に実行可能な物事を結びつけることで、今日のような製品を生み出してきたのだ。しかし、デザイン思考はそれだけにとどまらない。自分がデザイナーだと自覚したこともない人々にデザイナーの道具を手渡し、その道具をより幅広い問題に適用するのが、デザイン思考の目的なのだ。

この「その道具をより幅広い問題に適用するのが、デザイン思考の目的なのだ」という部分がミソである。たとえば、ユーザー体験の改善活動やサービス業のサービスの改善、さらには社会問題の解決といった分野にまで応用が可能なのだそうだ。

最近だと、ユニクロがTシャツのデザインを行えるアプリをリリースした。あれも、デザイン思考のプロセスによって生み出されたものだと、本書を読むと合点が行く。ユニクロは、ユーザーエクスペリエンスを丸ごとデザインした。つまり、消費者がTシャツの生産過程に参入できるようにしたのである。こういった現象は今後、さまざまな業界で応用され、導入されていくのだろう。

そして本書では、こうして消費者が生産プロセスに参加できる光景を「新しい社会契約」と説明していた。今まで一方向的なコミュニケーションをとっていた企業と消費者だったが、ここにきてお互いがタッグを組む、という現象が起こり始めているのだと思う。

本書にはさまざまなケーススタディが含まれている。日本の例で行くと、博報堂の行ったクールビズキャンペーンやパナソニックのとある有名な電池の例などが掲載されていいる。個人的に一番おもしろいと思ったのは、バンク・オブ・アメリカのお釣りを預金しましょうキャンペーンだった。レジで受け取るお釣りをそのまま預金してしまうという単純なキャンペーンだが、効果は絶大だったようだ。私もすごくおもしろいアイディアだと思う。

そして、そろそろこの書評にも飽きてきているころだと思うので、デザイン思考最大のエッセンスを書こうと思う。まず重要なのが、デザイン思考は直線的に形式だった方式があるものというわけではないということである。デザイン思考によって導かれるものに、「イノベーション」がある。イノベーションを生み出すには、3つの空間「着想→発案→実現」があるのだそうだが、これは非直線的――すなわち、いったりきたりするプロセスなのである。ここまできて落胆した方は申し訳ない。本書を読んでいて、どこにもデザイン思考の「公式」は存在しないのだ。

結局のところ、デザイン思考という大仰な命題を語っているわりには、やっていることは単純で「アイディアの組み合わせ」。ジョブズでいうところの"Connecting the dots"なのだ(違うかw)。しかしそのアイディアの組み合わせは、「着想」によってまずは目をつけられ、そのあと「発案」によって、ひと通り筋道のたった状態で誰かに提案される。そしてそこで没になる場合もあるし、案が通って「実現」のプロセスまで辿り着く場合もある。イノベーションは「数撃ちゃ当たる」と本書では語られていた。

そして、数撃つためには、「着想」部分がもっとも重要になってくる。

数撃ちゃ当たるを担うのが、発散=ブレインストーミングなのである。そして、ブレスト後にはかならず収束やグルーピングを行うはずだ。本書でもその重要性は強調されている。

デザイン思考を体験するということは、「収束的思考」「発散的思考」「分析」「綜合」という4つの心理状態の間でダンスすることである。

ここで重要なのは、発散ができなければ何も始まらないという事実である。

アイディアの組み合わせは、結局のところ莫大な「ボツアイディア」によって成り立っていると私は思う。それゆえ、「ボツアイディア」も出せないようなスッカラカンな頭では、何も新しいことは生み出せない。

したがってデザイン思考とは結局、日々の絶え間ない「着想」に支えられているといえる。日常を注意深く見ることに、デザイン思考の本質はありそうである。このことは本書に書いてはないのだが、私個人は、デザインにおいてもっとも重要なことなのではないかと思う。