【書評】『さおだけ屋はなぜ潰れないのか』―なんで潰れないのか。
真剣にビジネスをするにあたって、やはりお金の感覚がなくてはならないと思い、読むことにした。昔パラ読みし、しかも最近建築学科の友人が進めていたのを思い出し、まずはこれからと思い、(Kindleで)手にとった。
ポイントは、「利益 = 収益 - 費用」の公式と、「目に見えないものまできちんと見える化することによって、より正しい意思決定を行うことができるようになる」という点だったように思う。
感想としては、「割と当たり前のことをいってるんじゃないのか?」という感覚をもったけれど、これはおそらくきちんと経済学部で勉強した成果なのだろう。経済学も会計学も触れたことがない人から見れば、目からウロコの一冊だったに違いない。良書だと思う。必要な項目がコンパクトにまとまっていると思った。
では、本題。さおだけ屋は、なぜ潰れないのだろうか。
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さおだけ屋はなぜ潰れないのか。それは、利益というのは「収益 - 費用」であり、このことをさおだけ屋は本能的にわかっているからだ。この「利益」という方程式の変数は「収益」と「費用」のふたつしかない。すなわち、利益を増大させることは、収益を増加させるか、費用を減少させるか――もしくは、その両方を行うか――の問題なのである。さおだけ屋は、そのどちらも達成しているから潰れないのである。
「収益」を増加させ、「費用」を減少させる。さおだけ屋はとても上手に行っている。筆者によると、さおだけ屋は副業であることが多く、トラック代やガソリン代がかからない(本業がついでにトラックを使うので)。次に、竿を変える際に付属の設備も同時に変えることが多いため、1回あたりの工事での単価を高めるような努力がなされている。ゆえに、収益の増加も行われているのだ。さおだけ屋はうまいことやりくりしているのである。
また、これは家計にも当てはめられると筆者は言う。たしかにそうだと思う。私もここのところ「費用」の減少に力を入れてきた。が、そろそろ限界である(笑)。したがって最近、収益の増加に力を入れはじめたところ、少し家計が楽になったように感じる。
収益を増加させるにはどうしたらよいか。それは、単価を上げること、もしくは回転率を上げることである。そう考えると、牛丼屋はかなり危ないと思われる。単価を上げることはまず不可能*1なので、回転率を上げるしかない。ところが、回転率を上げるためには店舗スタッフの数を増やして業務効率を向上させるしかない。しかし、人件費は回転率を下げることよりも高くつく。このジレンマから、牛丼業界は抜け出せていない。
費用を減少させるには、やはり人件費を削ることが最善の策だろう。だが、店舗スタッフを減らしたことによって、ほかの業務に影響が出ている例もある。強盗などはその最たるものである。
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このように、収益の増加と費用の減少は、かならずしも別々の次元にあるものではなくてトレードオフの関係にあるものだから、安易に収益を増加させる方策をとればいいわけではないし、また費用を減少させる方策をバンバン打ち続けると、いつのまにか逆に損失を出す結果ともなるといえる。何かを得ようとすれば、かならず何かを代償にして失わなければならない。このことを本書から感じ取ることができれば、お金のセンスや経営のセンスが身につくのではないだろうか。
会計の本質的な考え方。それは、目に見えないものを具体的な数字として見えるようにすることである。ある選択(A)をするとき、もう片方の選択肢(B)は必然的に選択されないことになる。そういうとき、(B)は目に見えず、普段の生活では考慮されないのだが、会計学ではそこまで考慮するようにしている*2。ゲーテが絶賛したように、会計学は、世の中でもっとも世の中の現象を上手に表している学問だと思う。会計学の基本的な考え方を学ぶことは、自分の思考力や想像力を高めるためにも有効な手段なのである。