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気まぐれに書評とか。

【書評】『ゼロ』

2000年代、日本の話題をかっさらっていた人ランキングをとるとしたら、その一人に間違いなく上がるであろう人がいる。ホリエモンだ。起業を志す若者からは、あこがれのまなざしをあびた。一方で、既得権益を握る長老たちからは、敵意のまなざしを向けられた。これは間違いない。彼は、いい面でも悪い面でも、日本に影響を与えた人物だった。

そのホリエモンは、逮捕されてからすっかりマスメディアでは目にしなくなった。どちらかというと、Twitterをはじめとするインターネットの世界で目にする頻度の方が多い。釈放の際は、たしかほとんど報道されてなかったと思う。世間から干された、という表現が適切かどうかはわからないが、まさにそのような状態だった。

そんなホリエモンが、一冊の印象的な本を上梓した。『ゼロ』というタイトル。白地に黒い文字。帯には、白いシャツに黒いネクタイを締めた、ホリエモンの姿。これはただの本じゃないと直感させるような表紙だ。

この本でホリエモンは、ただただ「働きたい」という思いを爆発させていると思う。それは彼が服役中に常に抱いていた思いだったのだろう。そして、出所して働くことができるようになった今、彼は目の前に広がる未来に心をはずませている。そんな印象を受けた。

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本書をまとめるとすると、こんな感じになると思う。ヒッチハイクの「ノリと勢い」で小さな一歩を踏み出し、踏み出したあとは「足し算」方式で、一歩一歩「信用」を積み上げる。その積み上げの結果が「成功」だ。成功にはいろいろ定義があるだろうが、ある程度のお金を手にし、世間からお褒めをいただくことだと私は思っている。

働くとは、私たち学生が思うよりもおそらくずっとシンプルで、足し算方式で一歩一歩信用を積み上げていく作業なのだろう。信用を積み続けられれば、仕事は自然と舞い込んでくる。逆に信用なくして仕事は舞い込んでこない。信用があればお金は入ってくるけれど、お金で信用は買えない。

これは、今活動している団体でも感じることだ。普段はWebデザインの仕事をしているのだが、やはり丁寧にやった仕事については二度三度、仕事をいただけることがある。これが信用を積み上げることなのだと思う。誠実に対応し、丁寧にコーディングをし、納期は絶対に守る。これによって信用を積み上げる。周りの大学生が見ると、あまりにシンプルでなんだこれはと思うかもしれないが、このシンプルさがミソである。ウルトラCを狙うために複雑で難しいことをするよりも、シンプルに信用を積み上げたほうが何倍も早いんじゃないかと思う。一浪した受験のときも、変なテクニックに頼っていた友人は望んだ通りの結果が出ていなかった。それと同じだと思う。

物事の出発点は「掛け算」ではなく、必ず「足し算」でなければならない。まずはゼロとしての自分に、小さなイチを足す。小さく地道な一歩を踏み出す。ほんとうの成功とは、そこからはじまるのだ。

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今後再び若さゆえの傲慢に陥るであろう自分のために、一言戒めを書いておく。まず、世の中は広い。ゆえに、あなたの知らないことはたくさんある。だから常に、謙虚に学び続ける姿勢が絶対に欠かせない。それをやめた瞬間、人は傲慢になる。傲慢になるとなにが起きるかというと、周りが見えなくなる。見えなくなった周りには、配慮ができなくなる。配慮ができなくなると何が起きるかというと、人はあなたを信用しなくなる。信用がなくなると何が起きるかというと、ゼロになるのだ。

もちろん、人が絶対に傲慢にならないという保証はない。傲慢さという悪魔は、常にあなたの傍らにいる。ときに、悪魔のささやきに耳を貸してしまうこともあるだろう。そして、失敗する。だが、失敗してもいいから、かならず反省をすること。そして傲慢だったことを悔い、次にいかすこと。

私は、反省のできない人間には残念ながら同情できない。反省し、謙虚になり、ふたたびゼロの気持ちで再スタートを切る。こんなシンプルなことができない人間には、残念ながら同情はできない。――裏を返せば、ホリエモンはその点で私のお手本である。

歴史で偉大なことを成し遂げた人びとには、失意の期間があったことも多い。毛沢東やゲーム論を確立したナッシュなど。その失意の期間を同じように乗り越えたホリエモンの動きに、注目せずにはいられないと感じさせられる一冊であった。

そして最後に、私の尊敬するウィンストン・チャーチルのことばを添えておく。

Continuous effort – not strength or intelligence – is the key to unlocking our potential

力や知性ではなく、地道な努力こそが能力を解き放つ鍵である

ウィンストン・チャーチル名言まとめ(日本語、英語) - e-StoryPost