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気まぐれに書評とか。

【書評】『世界史をつくった海賊』

ウォーラステインの『近代世界システム』を読みはじめていたので、知識の拡充をはかるために並行して読んだ一冊だった。17世紀にはオランダがヘゲモニーをにぎるが、その後なぜイギリスはヘゲモニーをにぎることができたのか。疑問だった。

16世紀イギリスの経済成長の原動力は、海賊行為が主エンジンであったとすると、貿易はあくまで補助エンジンに過ぎない。東インド会社やレヴァント会社など、海外貿易を専門とする会社を設立する機運が生まれていたとはいえ、貿易だけで富国強兵は実現できない、というのが当時の現状だった。

イギリス発展の要は、世界史の教科書等でも扱われている通り「海賊の計画的な活用」だった。二流国で産業も何もなかったような当時のイギリスが、巨万の富を得、オランダを超える発展を成しとげることができたのは、まぎれもなく「海賊」のおかげだった。エリザベス女王は、公式には海賊を濫用していることは決して認めなかったが、裏ではドレークを中心とした王室直属の海賊が暗躍していた。ここから考えてみるに、資本主義の発展の本質は、略奪行為にあったと私は考える。

考えてみれば、アメリカも中東から石油を搾取するような構図になっているし、中国も徐々にさまざまな国から資源を搾取しはじめている。日本も人のことはいえず、近代においてさまざまな国から略奪を行ったから、戦力をたくわえることができたとも言える。しかもそれらは、決してフェアなトレードではない。どちらかといえばアンフェアな押しつけが多かった。日本も以前、欧米諸国に不平等条約を結ばされた歴史をもつけれど、搾取せねば発展できない資本主義の中では、強い国が弱い国に対して圧倒的に有利な交渉を行うという行為は当然のように行われた。

だが、そろそろ資本主義によって発展してきた世界経済も飽和状態を迎えつつある。そのとき人類はどこに向かうべきか。日頃考えあぐねているわけだが、大切なのはきちんとした倫理観を確立し、フェアなトレードを行うことではないだろうか。

今までは発展という第一目標の下、弱小国に対して多少アンフェアなトレードを行っても激しい抵抗をうけることはなかった。強大な国と弱小国とでは、力の差がありすぎたからだった。弱小国に無視されても痛くも痒くもなかった。それが、強い国の傲慢をうみだしたともいえる。

しかし、現代においては強い国が弱りはじめるという現象が起こっている。強さは絶対的なものではなくて、相対的なものだったのだ。そこで、以前は弱い国だった発展途上国に頼らざるを得なくなってきている。相互的な依存関係がうまれつつある。お互いがお互いを必要とする構図ができあがっている。

そういった状況のなかでアンフェアなトレードをしていては、元強い国は仲間はずれにされて破滅するしかなくなってしまうのではないだろうか。だからこそ、意識的にフェアなトレードを行わなければならないのである。

本書を読みながら、次の資本主義は高い倫理観の下に運営されることを望まずにはいられなかった。