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気まぐれに書評とか。

【書評】『ここがおかしい日本の社会保障』

2009年に発売された本のようなので、すでに既視感ある話題が多かったように思う。だが、それを除いたとしても私には物足りない一冊だった。著者も本書の終わりに「学者の机上空論といわれるのを覚悟しながら…云々」と書いているけれど、私はそのままこの言葉をオウム返しさせてもらう。学者の机上空論でしかない。

こういった社会保障論関係の本を読むとき思うことは、「地に足ついていない」という点である。たしかに日本の社会保障には問題点が多い。高度成長期をモデルに作られたものだったからである。時代の転換期である2000年代において見直しが迫られるのは当然だ。だから、ある意味ではこういった指摘は有効である。

コンサルタントという職業はときに日本の人びとから嫌われる。なぜかというと、言いっぱなしでいざコンサル自身が自分でできるかというと、できないような施策まで提案しているからである。つまり、実行段階までを視野に入れていない、ただの評論家ごっこに過ぎない仕事をする輩がいるからだ。本書はそれらと同等のことを行っているに過ぎない。

地に足ついた指摘とは、自らの提示する指摘についてメリット・デメリットを検証した上で、それでもなおデメリットを克服しメリットが大きいことを主張できる指摘である。そうでなければ読むに値しない。

さらに私が著者に問いただしたいのは、ではなぜ、ここ10〜20年で問題がここまで膨れ上がっているにもかかわらず、日本人や政治家は一向に抜本的な改革に踏み出さないのかという点だ。批判を恐れずこの1点、著者なりの考えを本書内に書いてくれていればと思う。(読み落としだったら申し訳ないですが)

また上記に指摘した点はほかの社会保障を論ずる本(おもに社会学者が書いた本)にも多く当てはまる。たしかに学者は実行段階まで考えることには意味はないかもしれない。改革する人が考えればいい。まさにそのとおりだ。だが、それでは少し投げやりなのではないかと思う。