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気まぐれに書評とか。

【書評】『夜間飛行』

「仕事をする」とはどういうことかを改めて考えさせられる作品だった。今日「ブラック企業」なるワードが横行しており、それについては常々疑問に思っているのだけれど、この本は「ブラック企業」問題に対してもある程度示唆を投げかけているのではないかと思う。

資本家と労働者は昔から対立関係にある。それは本書の夜間郵便飛行事業でも例外ではない。リヴィエールvs.ファビアン(の家族)、などなど。資本家は事業を継続する義務がある。なぜならまずは自分の生活のために。自分の名声のために。そして、会社に務める従業員とその家族のために。多少強引な手段を使ってまでも、資本家は企業を存続させて行かなければならない。だが、それを労働者はそれをなかなか理解できない。彼らにとっては、資本家の振る舞いはときに非情にすら感じられる。

ワタミの問題を見ているとまさに上のような構図を感じるときがある。そして、リヴィエール(郵便飛行事業会社の社長)もまた、渡邉美樹さんと同じ事をしでかしてしまったと私は考える。両者に欠けているのは、経営者にとっては一番大切な、ひとの気持ちに寄り添うということである。

私はリヴィエールという人を中心にしてこの物語を読んだが、リヴィエールはもう長いこと経営者の立場に立ってきたのだろう、少々周りに鈍感になってしまっていると感じられた。彼のセリフがそれを象徴している。

「自分のしていることが善いことかどうか、私は知らない。人生や正義やかなしみの、その正確な価値もわかりはしない。ひとりの人間の喜びにどのような価値があるのかも、知りはしないのだ。わななく手や、憐れみや、優しさの価値も…」 

「世論などというものは」と即座にやり返した。「誘導するすればいいのです!」そして思った。「これでは時間の無駄だ!もっと別のことがあるのに…何よりも大切なことがあるのに。生きる者は、生きるためにすべてを押しのけ、生きるために自分の仕組みを作り出す。それは誰にも止められない」。

そういえば、これはある上場企業の話しなのだが、上場までこぎつけた後に、社長がエネルギーを使い果たし、魂の抜けたような人間になってしまったという話を聞いたことがある。燃え尽き症候群というやつだ。社長は、経営者は、組織のトップは、とてつもなく大きな重圧に日夜耐えている。そんな状況にいるとどうしても、目的のためなら手段を厭わないような、そんなある意味で冷徹な人間になるのも仕方がない。

そして、従業員はこのトップの心境の変化をなかなか理解できないと思う。

――だが、同時にトップは常にジレンマを抱えている。それは、自分の事業が果たして正しいのかどうか。意義があるものなのかどうか。

「われわれは、永遠なるものであろうと願っているのではない。そうではなく行動やものごとが突然意味を失う事態を目にしたくないと願っているだけなのだ。そういう事態になると周囲に空虚が立ち現れてくる……」

事業の意義や意味なんてものは所詮空想でしかない。多くの企業は「理念」というものを掲げてはいるが、結局は利益を出せなければ株主から突き放され、カネに見放され、最後は消費者に見放される。意味がないとわかった瞬間に、トップは自分のやってきたことを正当化できなくなり、心は虚しくなる。からっぽになるのだ。だから、意味を求めて、あるいは――たとえ意味がないとしても会社を回し続けなければならない。

だが、このジレンマも同時にまた、従業員には理解し難いものだと思う。

リヴィエールは、最後に自分はその嵐の夜に勝利したと考える。結局なにも変わらぬ日々に戻っていくことができたからだろう。だが、彼も人間である。心のどこかにきっと虚しさを感じているに違いない。そこまでは直接的には描写されていないけれど、気持ちを想像することは難しくないはずだ。

ワタミの問題も、感情論を抜きにして考えられないものかとこの物語を読みながらふと思った。

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