multiplus

気まぐれに書評とか。

ルソーの家族観

ゼミの課題で、ルソーの『社会契約論』を読んでいる。受験勉強などで一度は聞いたことがあるという人も多いだろう。だが、実際に読んだ人はそう多くないと思う。

ホッブズやロックをきちんと踏まえていないと理解しづらい部分はあるけれど、基本は平易な本書。おもしろいのでぜひ読んでみてはいかがだろうか。

ルソーの家族観が、なかなかおもしろかった。新しいものの見方を提供してくれた。この新しいものの見方を提供してくれるところに、古典の魅力はあると思う。

すべての社会のうちでもっとも古い社会は家族であり、これだけが自然なものである。ところで子供たちが父親との絆を維持するのは、生存するために父親が必要なあいだだけである。父親の保護が不要になれば、この自然の絆は解消される。こうして父親も子供たちも独立した存在に戻るのである。もしそのあとでも親子の絆が保たれるとすれば、それは自然な結びつきによるものではない。両者が結びつきを望んだためである。だから家族そのものも、合意のもとでしか維持されないのである。(『社会契約論/ジュネーヴ草稿』光文社古典新訳文庫)

父親の存在意義って一体…。たしかルソーは別所で母親にも言及していたはず。『エミール』だったかな。

あと、家族は基本無償の愛で成立つという美談を大学生にもなってまだ信じている人は多いけれど、そろそろこの本を読んでその価値観をぶち壊されてください。

このように家族というものはいわば、政治社会の最初のモデルである。支配者は父の似像であり、人民は子供の似像である。…ただし家族と国家には唯一の違いがある。家族においては父親は子供たちにたいする愛情から、子供たちの世話をする。ところが国家においては支配者は人民を愛することはない。ただ命令する快楽から人民を支配するにすぎない。(『社会契約論/ジュネーヴ草稿』光文社古典新訳文庫)

まだ10分の1も読んでいないけれど、ルソーの視点はとても独特で毒に満ちており、文によっては思わず二度読んでしまう。ホッブズもロックもいまいちおもしろみに欠けていたけれど、ルソーがこれほどおもしろく感じられるのは、やはり「文学者」ルソーとしてのキャリアがあったからなのだろうか。